製造現場の事務所や厚生施設は、一度作ると移転の機会がほとんどないため、働く環境のアップデートが後回しにされがちです。しかし、竣工当時のまま時間が止まったような職場では、多様化する現代の働き方に対応できず、知らず知らずのうちに従業員の満足度を下げている可能性があります。
この記事では、製造業が直面する「人材定着」の課題を、オフィス環境から見直すポイントについて、実践事例を交えてご紹介します。
なぜ、オフィス改善が製造業の「人材定着」を左右するのか
製造業において、働く場所を整えることは単なる福利厚生ではありません。優秀な人材に長く活躍してもらうための「人材定着戦略」の要として、その重要性が再認識されています。
経済産業省「ものづくり白書」から見る、人手不足と定着の課題
経済産業省の「ものづくり白書」によると、製造業の雇用情勢は緩やかに持ち直しているものの、現場の人手不足感は依然として根深い状況にあります。
特に深刻なのは、次世代を担う若年層の確保と定着です 。新規学卒者の製造業への入職割合は長期的に低下傾向にあります。こうした厳しい状況下では、限られた人材に「この会社でずっと働きたい」と確信してもらうための、魅力あるオフィス環境の構築が不可欠な視点となっています。
出典:2025年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第 8条に基づく年次報告)
第1節 ものづくり人材の雇用と就業動向(PDF形式:2,251KB)
大学キャンパスとオフィス環境のギャップ
また、現在の若手社員が過ごしてきた大学キャンパスは、まるでおしゃれなカフェのように洗練された、心地よい学びの空間へと進化しています。洗練されたデザインや快適なラウンジ、最新のICT設備が整った環境で数年間を過ごしてきた若者にとって、社会人になってからの「働く環境」への期待値は自然と高まっています。
学生時代に当たり前だった「心地よさ」や「自分らしくいられる空間」が職場にない場合、彼らは大きなギャップを感じ、働く意欲や定着に影響を与える可能性もあります。今の世代の感性に寄り添った環境づくりは、もはや無視できない視点となっています。
日本文化大學様のジムやスタジオ、大教室など完備したラーニングエリア

少人数の学習エリア

グループ学習エリア

トレーニングジムやダンススタジオでの運動の後に汗を流しリフレッシュできるロッカー室

階段状のソファを設置し、イベント等でも利用可能なカフェエリア
製造拠点におけるオフィス環境の課題
工場や研究所は「場所と時間の制約」が前提となるため、オフィスワーク中心の拠点とは異なる特有の問題に直面しやすく、それが従業員のストレスや不満に繋がりがちです。
空間のアップデートが止まってしまう
オフィス移転の機会が少ないため、家具を更新するタイミングを失い、老朽化が進んでしまうケースが見受けられます。また、無機質な環境になりがちな製造現場では、従業員が仕事の合間にうまく気分転換を図ることが難しいといった側面もあります。
空間の使い方が固定化してしまう
多くの工場では居室空間の用途が固定されており、フレキシブルな区画変更がしづらい課題があります。例えば、食堂が「食べるためだけの空間」として固定されており、食事時間以外は活用されていないといったスペースの有効活用の難しさも挙げられます。
本社オフィスとの間に広がる「働きやすさ」の格差
WEB会議に適した場所の確保や、多様な人材が働くためのダイバーシティへの配慮が不可欠となっています。従来の施設構造のままではこれらの新しいニーズに対応しきれず、最新設備を整えた本社オフィスなどとの「環境格差」が格差が拡大する一因となっています。
定着率を高めるオフィスづくりのポイント
従業員が「大切にされている」と実感し、自律的に働ける環境を作るために、以下の視点を取り入れることが有効です。
1. 「自分らしくいられる」設備の整備
女性や高齢者、海外ワーカー、障がい者など、働く人の多様化に合わせた環境整備は「会社から大切にされている」というメッセージとして従業員に伝わります。清潔な更衣室、WEB会議ブース、体格に合わせた什器の導入などは、日々の小さな不満を解消し、安心感へと繋がります。
パウダーコーナーを完備したロッカー室

集中ワークにも活用できるWEB会議ブース
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WEB会議ブースに関する詳しい情報はこちらのページをご覧ください。
さまざまな属性のユーザーとのワークショップから生まれた、誰にとっても使いやすく、美しい形のチェアー

コクヨのインクルーシブデザイン HOWS DESIGNについてはこちらのページで詳しくご紹介しています。
2. 自律性を育む働き方(ABW)の導入
一人で集中したい、あるいはチームで議論したい時など、業務内容や気分に合わせて場所を自ら選べる「ABW(Activity Based Working)」の考え方は、製造拠点でも有効です。自分で選ぶという自律的な働き方が、仕事への主体性を高めます。
製造所に隣接するオフィスにソロワークやミーティングなどに使用できる交流拠点を設置

ABWについてはこちらのページで詳しくご紹介しています。
3. バイオフィリックデザインによる心地よい環境
植物や自然光を取り入れたオフィス環境では、標準的なオフィスと比較して幸福度が大きく向上する傾向があります。衛生管理やメンテナンスの観点から生の植物の導入が難しい工場施設などの場合でも、フェイクグリーン(人工観葉植物)を活用することで、同様に自然を感じる要素を取り入れることが可能です。

出典:コクヨ「inGREEN」
4. 「交流」を生む共有スペースの多機能化
食堂を単なる食事の場所ではなく、ソロワークや打ち合わせ、気軽な雑談ができる多目的スペースへ変えてみましょう。偶然の会話が生まれる場所は、心理的な安全性を高め、チームの結束力を強めます。

多目的に活用できる社員食堂のレイアウトについてはこちらのページで詳しくご紹介しています。
工場の休憩スペース設置事例はこちらのページで詳しくご紹介しています。
オフィスづくりの事例から見る社員の定着につながる工夫
コクヨマーケティングがご支援した製造拠点のオフィス改善事例をご紹介します。
東山フイルム株式会社 瑞浪工場様(オンとオフの切り替えを促す環境)
瑞浪工場の隣に研究棟を新設。「グループアドレス制」を導入し、部署内の連携と組織を超えた交流を両立しています。執務エリアとリフレッシュエリアの印象を意図的に変えることで、スムーズな「気持ちの切り替え」を促しています。

製品のサンプルを展示し、来訪者へ自社製品を紹介するショールームスペース。

窓側に景観を見ながら仕事をすることができる集中席を配置。

グループアドレス制を採用することで、部署内でのコミュニケーションを確保しつつ、社員同士の交流を促す運用に。

執務スペースに隣接したリフレッシュ兼コミュニケーションスペース。
シックな印象の執務エリアと内装デザインを変えて明るい雰囲気に。
東山フイルム株式会社 瑞浪工場様のオフィスデザイン事例はこちらのページで詳しくご紹介しています。
東邦チタニウム株式会社 茅ヶ崎工場様(働きやすさを追求したオフィス)
フリーアドレス制やリモートブースを導入し、業務に合わせて席を選ぶスタイルに。現場の意見を丁寧に取り入れたことで、従業員の方がいきいきと働ける、明るく機能的なオフィスを実現しました。

フリーアドレスを採用。ロングデスクの導入で組織変更や人員増にも対応しやすい設えに。

吹き抜けスペースにブース席を設置し、開放感と集中力を両立。

食堂のチェアは年齢・性別・体格・障がいの有無など、多様な特性を持つユーザーと共に開発した『Hemming』を採用。

明るいカラーで更衣室にリフレッシュスペースとしての雰囲気・機能をプラス
東邦チタニウム株式会社 茅ヶ崎工場様のオフィスデザイン事例はこちらのページで詳しくご紹介しています。
住友重機械工業株式会社 田無製造所様(交流を促進する場所づくり)
館内の遊休スペースをアウトドアモチーフのラウンジに刷新。リラックスした環境が拠点間の繋がりを深め、仕事へのモチベーションを高める「モードチェンジ」の場として機能しています。

上下昇降や天板の傾斜角度を調整できるデスクを導入。負荷の少ない姿勢をとることで、快適とはかどりを促進する環境に。

集中に特化したソロワークエリア。

カウンター席とテーブル席を混合させた集中と気分転換を目的としたエリア。
大型ロングデスク以外にも、上下昇降デスク、個人席等、様々な席を設置することで、業務内容や気分に応じて働く場所を選べるよう工夫。

自然と車座になって座ることができる多角形のソファエリア。
議論に集中できるため、ディスカッションなどの打ち合わせに最適な環境。
住友重機械工業株式会社 田無製造所様のオフィスデザイン事例はこちらのページで詳しくご紹介しています。
三菱電機株式会社 福山製作所様(若手の声を形に)
若手メンバーを中心としたプロジェクトチームを結成し、「理想の働き方」を形にしました。若手メンバーが主体となって作ったオフィスは、自分たちの居場所としての愛着を深め、特に若手層のエンゲージメント向上に貢献しています。

フリーアドレスを導入した総務・経理フロアでは、さまざまな種類のデスクを配置し、その日の業務内容に合わせて働く場所を選べる環境に。

メイン動線上にコミュニケーションの取りやすい共用のタッチダウン席を配置。

優れた換気性能のある2人用ブースは、設置するだけでオープンエリアでもクローズド環境を実現。

会議室は、利用目的に合わせ組み替えやすいテーブルを設置。
三菱電機株式会社 福山製作所様のオフィスデザイン事例はこちらのページで詳しくご紹介しています。
「現場の声」から、理想のオフィスを
経営側の視点だけでなく、現場で働く一人ひとりの声に耳を傾けることで、オフィス環境はさらに価値のあるものに変わります。
私たちが提供する「働く環境診断サービス(はたナビ プロ)」は、そんな「現場のリアルな声」を見える化する無料のツールです。全国平均データとの比較を通じて、自社の今の立ち位置を確認し、どこから手をつけるべきかのヒントを見つけることができます。
世代や部門ごとの細かな分析も行えるため、みんなが納得できるオフィス改善の一歩として、ぜひお役立てください。
コクヨの働く環境診断 はたナビ プロに関する詳しい情報はこちらのページをご覧ください。
まとめ
働きがいや定着率を左右するオフィス環境の改善。環境を整えることが、結果として「社員を大切にする」という感謝のメッセージを伝える、有効な手段として機能します。
コクヨマーケティングでは、人材定着やワーカーがいきいきと働けるオフィス環境の実現に向けて、営業を中心に、設計や施工管理など各工程に対し専門スキルをもったプロフェッショナルメンバーがチームで対応いたします。 是非ご相談ください。
オフィス移転・改装レイアウトの課題を解決します
